![]() カヌーの構造−34.抵抗■抵抗について
フネが進むときに様々な抵抗力が働く。「抵抗力」とは簡単に言えば「フネが進むのをじゃまする力」である。抵抗が小さいほど楽に進むことができるし、スピードも出すことができる。抵抗は次のようないろいろな抵抗成分からなっている。 (1)空気抵抗、(2)粘性摩擦抵抗、(3)粘性圧力抵抗、(4)造波抵抗である。 このうち、(1)の空気抵抗は抵抗力全体に対する割合は非常に小さいので無視してよい。 (2)の粘性摩擦抵抗とは、ハルの表面における水との摩擦抵抗で、全抵抗のうち多くを占める。 (3)の粘性圧力抵抗とは、没水部の形によってもたらされるが、カヌーのような細長い流線型のフネではそれほど差が出ない。 (4)の造波抵抗とは、その名のとおり波を造ることによる抵抗である。波を造ることによって損失するエネルギーと言い換えても良いだろう。 右の表を見てもらうと分かると思うが、フネの速度が遅いときはハル表面の摩擦抵抗が大きな割合を占めている。摩擦抵抗はフネの速度にほぼ比例して大きくなる。一方、造波抵抗は複雑なカーブを示しながら増加する。 スピードを求めるフネでは、この抵抗をいかに小さくするかが問題となる。もっとも手っ取り早いのは、摩擦抵抗を小さくすることである。それには没水部の面積をなるべく小さくするのが有効で、排水量が同じなら球形に近いほど良いという訳である。 ■サーフェイスボリュームレシオフネの総重量が同じでも没水部の形によって没水部分の面積は変わってくる。表面抵抗を小さくするにはなるべく没水部分の面積を小さくしてやれば良いことになる。フネは、そのカヌーと荷物や人を合わせた総重量と同じ重さの水の体積分だけ水を押しのけて浮いている。有名な「アルキメデスの原理」である。 サーフェイス/ボリュームレシオとは、「押しのけている水の体積」と「水を押しのけている部分のハルの表面積」の比で、次の式によって求められる。 (水を押しのけている部分のハルの表面積)÷(押しのけている水の体積)=(サーフェイス/ボリュームレシオ) (S/Vレシオ) 一般的にS/Vレシオは、球が最も小さく、平らな表面の物やとがった形状の物は大きくなる。キールが付いているハルでは、体積はほとんど変わらないが表面積は大きくなるので S/Vレシオは大きくなる。 従って抵抗は大きくなり効率は低下する。
■肥痩係数
肥痩(ひせき)係数とは、没水部の最大面積に喫水長を掛けた部分の体積と没水部の体積の比で、英語では、prismatic coefficient と言い「Cp」と略す。この数値はフネの没水部が太っているか痩せているかを表している。数値が大きいほど太ったフネで、スピードは出にくい。 カヌーやカヤックでは通常、Cpは0.5〜0.6くらいの範囲である。 ちなみに、タンカーなどは0.8以上にもなる。 5.安定性について■安定性とは
よく、安定性が良いとか悪いとか言うが、いざ説明しようとすると簡単ではない。おそらく、フネの幅が広けれれば安定性が良いということは想像がつくと思うが、もう少し突っ込んで述べてみることにしよう。 安定性とは、復原性と言い換えてもいいだろう。(フネの場合「復元」ではなく「復原」と書く) 復原力とは、フネが傾いたときに元に戻ろうとする力である。復原力が大きいほど安定だと言うことができるだろう。 復原力を考えるとき、右図のようにフネを少し傾けると分かりやすい。 フネの重心をG、浮心CBとはcenter of buoyancy の略で浮力の働く中心点のこと。 重心と浮心の間の水平距離を復原梃(ライティングアーム)という。 浮力の作用線とフネの中央線との交点をメタセンター(MC)という。 右図の場合、フネを元に戻そうとするモーメントが働いているのでフネは水平に戻る。 モーメントの大きさは、「フネの重量(浮力と同じ)」×「復元梃」となる。
右図はフネが復元するときと転覆する時を比較したものである。図(上)では、フネを起こすモーメントが働き、フネは復元する。 図(下)では、フネをより傾けるモーメントが働き、フネは転覆してしまう。 重心GとメタセンターMの間の距離を「メタセンター高さ」という。重心がメタセンターより下にある時を正としている。 図から分かるようにメタセンター高さが大きいほど復元力は大きく安定性が大きいと言える。逆に、メタセンター高さが負になればフネは転覆する。(下のG1の場合) また、G2のように重心が浮力の作用線より外側になればフネは転覆する。 一般的に、重心の位置を低くするほど、喫水幅を大きくするほど安定性は大きくなるといえるだろう。
右図は復元梃(ライティングアーム)とフネの傾斜角の関係を表した図である。安定性を次の二つに分けることもある。 ひとつは、一次安定性(イニシャルスタビリティーあるいはプライマリースタビリティー)と言い、もうひとつは、二次安定性(セカンダリースタビリティーあるいはファイナルスタビリティー)と言う。 これらの境目ははっきり決まっているわけではなくかなり曖昧であるが、おおよそ傾斜角15度くらいといわれる。 これらの違いはなかなかイメージしにくいが、敢えて言葉にしてみれば、一次安定性は平らな水面でどれだけ安定しているかの程度を示し、二次安定性はカヌーを傾けたときどれだけ元に戻る力があるか、どれだけ転覆に耐えられるかの程度を示しているといえる。 「フネの選び方」のページで「安定係数」(スタビリティーファクター)という数値が出てくるが、これは、フネの傾斜角が15度の時のメタセンター高さなどから計算した数値である。 「安定係数」は一次安定性を比較する時の目安になるだろう。 ■色々な状況での安定性の比較対照的な2つのタイプ、フラットボトムとシャローアーチで色々な状況に於いて安定性がどのように違うか比較してみた。
1.水平時
フラットボトムは最大喫水幅で水と接している。アーチは喫水幅は狭い。水平の時はフラットボトムの安定性が大きい。2.荷重時
フラットボトムは荷重がかかっても喫水幅はあまり変わらない。アーチは、荷重がかかると喫水幅が大きくなり安定性は増加する。サイドがフレアーなら喫水幅は3.傾斜時
フラットボトムは、傾くと喫水幅が急激に小さくなり安定性も減少する。アーチは、傾いてもほぼ最大喫水幅にて水と接している。従って安定性は増し、バランスをとるのも楽である。4.波
フラットボトムは、波の中では非常に大きく揺れる。バランスをとるのが大変である。アーチは、波の中でもフラットボトムほど大きく揺れることはなく、バランスを保つのも楽である。 ■まとめこれまで述べてきたように、フネのデザインや性格は非常に複雑である。また、大きなフネと違い、カヌーやカヤックなどの小さいフネでは、フネそのものの持つ性格よりも、外から与えられる要因による影響がはるかに大きい。 例えば、カヌーの排水量について言えば、カヌーそのものの重量は僅か20〜30kgほどしかないのに、人間一人はそれの倍以上にもなる。一人乗ったときと2人乗ったときでは排水量は非常に大きく違うのだ。当然、喫水も大きく異なるので、カヌーの振る舞いも違ってくる。 また、乗っている人間の位置や姿勢、荷物の位置などによってフネの重心は簡単に変わってしまうのである。 だから、僅かに傾いただけでも急激にバランスを失って転覆したり、逆に、普通なら転覆するくらい大きく傾いても復元することができたりするのである。 このように考えると、カヌーやカヤックの性格を科学的に解析して数値で表すこと自体あまり意味のないことに思えてくるかもしれない。 しかし、具体的な数値がなければ、フネを選ぶ際に判断する事が出来ないのだ。 このように、数字で全てを表せないところが小さいフネの面白いところで、また魅力でもあるわけだ。 カヌーやカヤックは、乗る人間のテクニックやセンスによってどうにでも変わるトリッキーなフネなのだ。そこが面白い。 ウッドカヌーとは何か |ウッドカヌーの歴史 |ウッドカヌーの材料 |ウッドカヌーの種類
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